【ファサードデザイン】
江畑整形外科様の建物は、建築家の方によるキューブ型の美術館のようなとてもモダンなデザインです。全面ガラス張りの建物正面の右端に、建物全体のアクセントともなるファサードサインのご依頼をいただきました。この建物は設計当初、医療モールとして複数の施設が入ることを想定していたため、このスペースには施設ごとのサイン看板が入る予定でした。しかし設計が進むうちに一棟全体をこちらの病院で使用することになり、結果的にこのスペースだけが丸々残ってしまったという経緯があります。
この大きなスペースに何をデザインするのか。そこから考えなければなりません。病院名を配したメイン看板は1階駐車場入口上にあるため、デザインの材料としてロゴは使えません。そして主張の強いデザインも外観の美しさを邪魔するので適切ではない。建物のクオリティーを損なわず、かつ、意味を持った「何か」をデザインする。これは難題でした。
悩むなかで、ロゴマークデザインの際のヒアリングで先生から伺った「徹夜で3本の切断指を繋げた」というマイクロサージャリーのエピソードを思い出し、ついに着想を得ました。(マイクロサージャリー=手術用顕微鏡を必要とする手術の総称)
50~100ミクロンの針が直径1mmほどの神経や血管を縫い合わせていく。1ミクロンは1/1000mmで、人間の髪の毛は約150ミクロン。顕微鏡の中に映し出される人体の世界はさながら宇宙的で、その中を縦横無尽に走る神経、血管、筋組織を繋げていく卓越した外科医療の手技。
頭のなかに浮かんできたその情景を、十字マークをモチーフにして「繋ぐ」をコンセプトに展開させました。
色は、クールでモダンな建物の品格を損なわないよう、駐車場上メイン看板のグリーンの系統で落ち着いたグレイッシュディープグリーンのグラデーションで透明感のある仕上がりにしました。また、ここは建物の印象を左右する重要な箇所ですので、建築事務所様とも相談しながら看板制作会社様に試し刷りも出していただき、慎重に検討しました。
建物が完成して竣工写真のデータをいただいた時は、その仕上がりに心底胸を撫でおろしました。このファサードサインは誰もが注視して見る場所ではありませんが、逆にデザインが悪ければ誰の目にも止まってしまうという大きな責任がありました。それだけに思い出深い案件のひとつです。